財務DDのポイント
Q 財務DDにおけるポイントについて教えてください。
A 財務DDは、対象会社が公認会計士等による会計監査を受けているかどうかにより実施手続は大きく変わります。
公認会計士等の会計監査を受けていない場合には、まずGAAP(一般に公正妥当と認められる企業会計の基準)を適合した場合の影響を把握する必要があり、証憑突合等の作業が重要になります。
公認会計士等による会計監査を受けており適正意見が表明されている場合には、財務諸表自体の信頼性は確保されていると考えられます。ただし、GAAPに従った会計処理と財務DDの目的の1つである買収価格算定のための評価との相違点に留意する必要ががあります。
いずれの場合においても、必ず実施すべきポイントとして、次の事項が挙げられます。
- 時価評価
- 資産の回収可能性
- 資産性のない項目の評価
- 引当金の合理性
- オフバランス取引
- オーナー等との取引
- 議事録等通査
1 公認会計士等の会計監査を受けていない会社への財務DD
非上場会社等で、公認会計士等による会計監査を受けていない会社においては、税務基準による会計処理が採用されていることが多い傾向にあります。また、ある程度の会計処理について一般に構成妥当と認められる企業会計基準(GAAP)に準拠しているとしても、減損会計等、複雑な専門的知識が要求される項目については適用しないケースも多く、また、会計基準の改正に対応できていないケースも見受けられます。したがって、GAAP準拠による適正な期間損益と財政状態の把握をまず行うことが必要になります。
さらに、内部統制の整備及び運用も不十分であることが多く、不正経理が行われている可能性もありますし、意図的でない会計処理の適用誤り等の誤謬も多く見受けられます。したがって、DDにあたっては、提供される資料がそもそも正確性を欠いたものであるケースもあるため、証憑突合党の作業を十分に行うことが必要になります。ただし、財務DDは限られた時間のなかで実施され買収者の意思決定に資する情報提供を目的としているため、買収者の意思決定に資するか否かの重要性に応じて柔軟に対応することが必要です。
2 公認会計士等の会計監査を受けている会社への財務DD
公認会計士等の会計監査を受けており適正意見が表明されている場合には、財務諸表の信頼性は確保されていると考えられます。ここでのポイントは、GAAPに従った会計処理と財務DDの目的の1つである買収価格算定のための評価との相違です。
企業の継続性を前提としてGAAPにより財務諸表が作成されていますが、財務DDで求められる情報は、可能な限り時価に近い情報です。たとえば、市場価格のない有価証券については、GAAP上では評価減の対象とはならない程度の持分の毀損であっても、財務DDにおいては評価損を把握し、純資産の調整項目となりますし、評価益の場合も調整することになります。したがって、含み損益情報の入手が重要となります。
また、買収会社と対象会社の会計方針が異なる場合には、対象会社の採用している会計方針がGAAP上適正なものであったとしても、買収会社の会計方針に調整して影響額を把握する必要がある点に留意が必要です。
3 主要な調査ポイント
財務DDにおいて特に検討を要する項目として、以下のものがあります。
(1)資産の時価評価
イ.土地の含み損益
不動産鑑定士の鑑定評価書により入手した時価情報、または、鑑定評価書の入手が困難である場合には、公示価額、路線価、固定資産税評価額等から算定した推定時価と帳簿価額とを比較して含み損益を把握します。
ロ.有価証券、ゴルフ会員権の含み損益
市場価格のある有価証券については、評価基準日における時価情報を入手し、帳簿価額と比較して含み損益を把握することが必要です。また、ゴルフ会員権についても、相場情報の入手により含み損益の把握が必要です。
なお、市場価格のない有価証券については、市場価格のかわりに投資先基準の直近の財務諸表から算出した純資産持分と、帳簿価額とを比較し、含み損益を把握します。
(2)資産の貸雄可能性
イ.売上債権
長期滞留債権の状況に応じて、個別に貸倒引当金の計上の要否を検討します。また、調査基準日以降調査日までの間に新たに判明した貸倒れについては、貸倒引当金を追加計上します。
ロ.金銭債権
売上債権同様、回収状況を把握し、回収可能性に疑義がある場合には、貸倒引当金を計上します。
(3)資産性に疑義がある場合
仮払金については、資産性に疑義があるものが含まれている可能性があります。仮払いを行った日、精算予定日、内容について把握し、適当な科目への振替を検討する必要があります。
(4)引当金の合理性
イ.賞与引当金
賞与引当金を引き当てている会社は多いですが、社会保険料の会社負担部分についても適切に見積り計上されているか検討します。
ロ.役員賞与引当金
役員賞与についても、従業員賞与と同様に、適切な見積り計上が行われているかどうか検討します。
ハ.退職給付引当金
買収時において、一部の従業員、役職員の退職が予定される場合にあh、予想される退職金の支給見積額を把握します。
また、退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務として計上する方法を採用しているとしても、買収後に従業員の退職を予定している場合には、会社都合による要支給額を把握することが必要になります。さらに、その際には特別功労加算金の額についても考慮します。
(5)偶発債務等のオフバランス取引
イ.訴訟案件
裁判で係争中の事件や未確定の係争案件、賠償請求等がある場合には、、損失負担の発生する可能性が予想される金額について検討し、引当金の計上を検討します。
ロ.未計上債務
調査基準日時点までにすでに役務提供を受けているものの未払計上されていない項目の有無を調査し、適切に未払計上します。
ハ.債務保証
役員や関係会社に対する保証契約や保証予約等の債務保証・保障類似行為がある場合には、債務保証損失引当金等の計上の要否を検討します。
ニ.デリバティブ
デリバティブ取引等を行っている場合には、将来において財務諸表に多額の影響を及ぼす可能性があるため、内容を確認するとともに、時価情報を入手して含み損益を把握します。
ホ.リース契約
解約可能性のあるリース契約があるかどうか、また、解約の際の違約金の有無について確認します。
へ.後発事象
調査基準日から調査日時点までの間に発生した重大な後発事象の有無及びその内容について確認し、財務数値に重大な影響を及ぼす可能性について検討します。
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